fluctuation’s diary

理系院生の思考のゆらぎ

三題噺 「黄昏」 「サボテン」 「静かな存在」(テーマ「サイコミステリー」)

まずい、ジョンの奴怒ってるかもしれないな。

すでに黄昏時。あたりの砂漠一面すでに赤く染まり上がっている。遠目に見えるサボテンの集団は、夕焼けのせいか、根元から弱火に熱せられているようにみえる。その植物達の隣には、ポツリと寂れた宿場町が見えた。予定時刻より大分遅れてしまった。

サクサクと革靴で細かい砂を刻み込むリズムが早くなる。エジプトの僻地、名も知れぬ村を目指すマイクは、一足先にその村で自分を待っているだろう親友の姿を想像し、自然と口角がもち上がる。ジョンは昔も今も時間に厳しい男だった。ビールの一杯ぐらい奢らされるかもしれんな。まあこんな乾いた町にビールなんて贅沢品があればの話だが。そうこう思案しているうちにボロボロで形をたもっているのがやっとそうな門をくぐり抜ける。ジョンとの待ち合わせはあの店だ。今回俺とジョンはこの村の奇妙な事件を調査しに来た。何でも街へ出かけた商人たちが次々と行方不明になっているという。先にこの事件を聞きつけたジョンはすでに昨日にはこの村についており、色々と調べてくれているはずだ。店の扉を押しのけ薄暗い店内をのぞいてみる。ジョンらしき人物は見当たらない。それどころかカウンターの前でタバコを吹かしているオーナー1人以外誰もいない。奇妙に思いつつも、喉が渇いていたジョンはオーナーに水を頼む。矢継ぎ早に、ジョンという男は知らないか?ここで待ち合わせの予定だったのだが、と語りかける。すると、オーナーは、すまないな。水はやれん。この村の掟で他所他人に飲ませてはいけないときめれられているんだ。ただどうしてもというなら飲める場所に連れてってやる。ついてこい。と店の外へでて町の入り口門までスタスタと歩いていく。仕方がないと思い、マイクは黙って後ろに付き従う。門をくぐり数十メートル先のサボテンの集団とその中心にある井戸を発見した。オーナーがあの井戸の水は他所者でも飲んでいいことになっていると言い、井戸のバケツを手渡してきた。マイクは、早く飲みたいと井戸の中にバケツを投げ込む。ドムっとなにか鈍い音がするが、カラカラの喉に急かされるようにバケツを引き上げた。暗闇から這い上がってきたバケツの水面が星の光にゆっくりと照らされていく。そこでマイクは気づく。なんとバケツの中身は赤黒い血だまりだと。ふっとオーナーの方に振り替えろうとした瞬間背のあたりに激痛が走る。刃物で奥深く刺されたようだ。痛みで体が崩れそうになった所を、力強く押され井戸の中へ倒れこんで行く。ゆっくりとなすすべもなく井戸に落ちて行く寸前、その目に移ったのは根元が赤黒いサボテンだった。それは、まるで地中に豊富にあるだろう血を栄養に聳え立っている静かな存在のように見えた。